やさしい政策とインフレ政策、国民感情と現実の乖離 ―
昔々、ある小さな国がありました。その国はリンゴを特産物としており、環境の恩恵による豊作とその品質を誇っていました。もちろん、国民の主食もリンゴです。
そこでは王様が国民に金貨を配り、人々はその金貨で生活を営んでいました。
パン、服、宿、そして……リンゴ。
この国では、リンゴ1個は1金貨と決まっており、
誰もが必要なだけリンゴを買って暮らしていました。
人々は満ち足り、王様は「我が国は豊かだ」と胸を張っていたのです。
災難の訪れ:リンゴが足りない
ある年、災害によりリンゴの収穫量が激減しました。
毎年採れていたリンゴが、わずか半分に。
市場に並ぶリンゴは明らかに少なくなり、
裕福な者のひとりが言いました。
「2金貨出すから、1つ譲ってくれ」
その一言が価格の競り上がりを生みました。
次々と「3金貨出す」「4金貨でもいい」と声が上がり、
庶民は市場で手も足も出なくなっていきました。
庶民の訴えと王の優しさ
庶民たちは王様のもとに集まり、声をあげました。
「リンゴが買えません。生活が苦しいのです。どうか、金貨をもっとください!」
王様は心を痛め、「よかろう。今年は金貨を2倍配ろう」と決断しました。
庶民は歓喜し、懐に金貨を入れて市場へ向かいました。
しかし、リンゴの数は変わっていません。
買い手が増え、競争は激化。
富裕層は「5金貨でも買う」と言い出し、
庶民も仕方なく「6金貨なら」と追従しました。
こうして、リンゴの価格は 1 → 6金貨 へと跳ね上がったのです。
さらなる怒り:金持ちを叩け!
市場で買えぬ庶民のひとりが叫びました。
「金持ちがすべてのリンゴを奪っている!やつらの金貨を没収しろ!」
やがて、これまで国益のために行っていた輸出にも批判の声が上がりました。
「国民が苦しんでいるのに、海外にばらまくとは何ごとだ!
輸出なんかやめて、国内に回せ!」
その声は日に日に大きくなり、王様も民意に押されて、
次のような政策を打ち出しました。
- 一定以上の金貨を持つ者から余剰分を没収し、庶民に再分配する
- 状況が落ち着くまで海外への輸出を制限する
人々は「これで救われる!」と歓喜しました。
しかし、金持ちはただの“リンゴ泥棒”ではなかった
この国の富裕層は、ただ金貨をため込んでいたわけではありませんでした。
- 海外と貿易をし、他国から物資を輸入していた者
- 外国の貴族に馬術を教え、王宮料理を売り込み、外貨を稼いでいた者
- 芸や話術で外国から観光客を呼び、娯楽産業を盛り上げていた者
そして、輸出はこの国の品質と信頼の象徴であり、外貨を稼ぐ国の収入源でもあったのです。
つまり彼らの経済活動と輸出によって、国には外から物資も外貨も人も入ってきていたのでした。
しかし、重税と金貨の没収が始まると、富裕層は国外へ移り始め、交易は止まり、観光客も姿を消しました。
さらに輸出の制限により、国際的な信用も落ち始めていました。
やがて市場には、「自国の金貨はあってもリンゴがない、そしてその他の物資が圧倒的に不足する」という、空虚な世界が広がっていったのです。
冷静な大臣の進言
そんなとき、一人の大臣が王に進言しました。
「陛下、いま我が国には“モノ”が足りないのです。
いくら金貨を配っても、供給がなければ価格は上がるばかり。
金貨の再分配も、外貨を稼ぐ力を失わせるだけでございます」
王様は深く考えた末、こう国民の前で語りました。
「我々はこれより、自国通貨の引き締めに踏み切る。この政策が、短期的には事業や家庭に一定の負担を強いることを、私は深く理解している。しかし、我が国の経済全体にとって、持続的かつ安定した物価の環境を取り戻すことは不可欠である。国王として、私は感情ではなく構造と責任に基づいて判断を下さねばならない。我々には、それを実現するための適切な手段(ツール)があり、私はそれを用いて進めていく。必ずやこの取り組みが、未来の成長と安定への礎となると信じている。国民の皆には、理解と協力をお願いしたい。」
給付を止め、自国金貨の引き締めを行い、流通する金貨の量を少しずつ絞っていく政策を採用しました。それと同時に、災害につよい栽培方法の研究開発もすすめ、供給の安定化に努めました。
冷たい政策と、静かな回復
最初は人々が反発しました。
「今こそ支えてくれるべきではないのか!」
「冷たい王だ!」
しかし数ヶ月後、人々は金貨の使い方を見直し、
無駄な買い物を減らすようになっていきました。
すると、リンゴが余りはじめ、商人は値段を下げはじめました。
価格は、
5金貨 → 4 → 3 → 2……
やがて、再び1金貨でリンゴが買える日が戻ってきたのです。
ちょうどその頃、リンゴの収穫も平年並みに回復していました。

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